予定外の展覧会、少女の不思議な視線
京セラ美術館でモネの描く「静」なる光の世界に浸った後。
ふと向かいの京都国立近代美術館のポスターに足を止められました。そこにいたのは、綿毛のような白い花束を手に静寂から不思議な強い視線を向ける一人の少女のポスター。
”なんだろう”それが最初に感じたこと、旅先での感受性がいつもよりいろんなことを吸収する。その感覚に従って、その視線に吸い込まれるようにチケットカウンターへ向かいました。

「静」から「動」へ:魂を揺さぶる「若きポーランド展」
午前中に鑑賞したモネ展が、穏やかな光の移ろいを感じる「静」の世界とすれば、午後のこの「若きポーランド展」は、静寂の中から放たれる強いエネルギー「動」の世界でした。
館内に入ると、その「動」を表すかのような強い視線をこちらに向ける男が描かれた大きな展覧会の垂れ幕が出迎えてくれました。

放たれた情熱に触れて
19世紀末から20世紀初頭。激動の時代の作品たちは、どれもが静かな内側からの強いエネルギーを放っています。軽やかな色彩ではなく、鮮やかな色彩と描かれている被写体の鮮烈な「生」の躍動感。まさにこの展覧会のイメージカラーの赤、そのものでした。
123年間、国を失ったポーランドの人々が自らのアイデンティティの拠り所としたのが、文学や音楽そして絵画などの芸術であり、言語や宗教を含む広義の文化でした。そしてその中心地として重要な役割を果たしたのが、古都クラクフ。ポーランドの国民芸術の在るべき姿を模索し、〈若きポーランド〉が生み出した芸術を日本で初めて紹介した展覧会です。





作品ひとつひとつの熱量の高さが視線をとらえて離さないエネルギー。被写体や構図とかが特別珍しいものとかそういう理由ではない、鮮やかな色彩と作品の余白に感じられる奥行きの中にある何かはきっと、被写体や作者の思いだろう。




作品には作者の思いが宿るという話を聞いたことがありますが、この展覧会の作品たちは、作者の意図というよりも、描かれている被写体の魂のようなもののエネルギーが強く込められている。そして、その頃のポーランドの時代が持つ何かがある。そんな気がしていました。ある意味、モネ展よりも強烈に、今の自分の心に突き刺さりました。展示室を出る頃には、自分の中にも熱い何かが甦ってくるのを感じたました。
そして、私をこの展覧会へといざなった少女が描かれた本物の作品の前へ。
フワフワと綿毛のような白い花は菊の花でした。
繊細な筆づかい、銀灰色の微妙な色合いの、キラキラとした黒く大きい瞳、透き通るような青白い肌、色彩の真髄を体現した作品は、目の前で向かい合うとその吸引力はとても強いものでした。ただ目の前に立ち、見入るといった風に時間をかけて見ることができました。とても印象に強く残る作品との出会いは思い出となって、記憶の宝物になります。

オルガ・ボズナンス力
(菊を抱く少女))
1894年、油彩/厚紙、88.5✕69.0cm
クラクフ国立博物館蔵
美術館の窓から見つめる、現実の春
展示室の「動」の熱量に圧倒された後、廊下の大きな窓から外を眺めます。そこには、何事もなかったかのように穏やかな京都の春が広がっていました。


朱色の大鳥居と、淡い桜。作品から受け取った激しい余韻を、この景色がゆっくりと受け止めてくれるような感覚。この「静」と「動」の往復こそが、美術館巡りの醍醐味かもしれません。


白川散歩、そして「とらや」での再会
昼下がりの美術館を後に、祇園方面へまた白川筋を戻る。日はまだ高く登っていて、午後の光が射す白川沿いは柳の緑と桜と水面が重なって、朝とは違う美しさでした。



賑やかな祇園に戻り、待ち合わせた場所はとらや四條南座店。ここで、今回の旅に合わせて、京都で修行中の知人と久しぶりの再会を果たしました。

あんみつを挟んで、一時間の濃密な対話
自宅から遠い、ここ京都で研鑽を積みつつ、期間限定で東京でも修行をされるという彼女。いくつになっても行動する、その前向きな挑戦の話を聞き、「目的を持って生きる」彼女の姿に、先ほど見た画家たちの「動」の情熱が重なる。若きポーランドでふつふつを沸く自分の中の熱のようなものが、またここで熱を帯びてきた気がして「こんな生き方ももいい」……そんな気づきをもらった、彼女の仕事の合間の休憩時間、束の間、けれど濃密な一時間を過ごしました。こういう出会いは自分へのメッセージでもあるんだと思います。

実は、とらやは京都生まれ
今回とらやで、いただいたのは宝石のように美しいあんみつ。
とらや京都限定メニューの「きな粉あんみつ」
きな粉餡と琥珀羹に白玉、さまざまな味わいが黒蜜がまとめる、珠玉の一品。
とらやといえば「東京の和菓子店では?」と思われる人もいるかもしれませんが、実はその発祥の地は京都。永年にわたって御所の御用を勤めてきたとらやが店を構える一条店が、現在の御所西エリア。少なくとも寛永から店を構えていたことが記録に残っているそう。室町時代後期に創業し、後陽成天皇の御在位中には御所の御用を勤めるようになり天皇や皇族をはじめ、徳川将軍家などからも注文を受けるようになりました。明治に入り、東京遷都にともない、天皇にお供して、京都の店をそのままに、東京にも進出したのでした。
とらやは東京のイメージが強かったので、知った時は妙に納得したものです。和菓子といったら、京都ですもの。

灯った火を消さないように
予期せぬ見知らぬ世界のアートとの出会い、そして知人が放つ能動的なエネルギーとあんみつの黒蜜の濃厚な甘味。 春の風に吹かれ、「静かな情熱」が、けれど確かに「動」の力を伴ってしっかりと灯り始めた気がしました。
心もお腹も満たされ、足取りも軽く次へと向かいます。
今夜の締めくくりは、昨夜は満席で入れなかったあの店へリベンジです——。
→(次回、第19弾「自然派ワインバー epron 」へと続く)
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立ち寄った場所
・京都国立近代美術館 MoMAK
左京区岡崎
〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩 1890-1918
会期終了 2025.03.25 tue. – 06.29 sun.
・白川沿い
岡崎エリアの岡崎疏水から祇園までの白川沿いの路地、散策路
白川疏水。京都の岡崎から祇園に流れる白川。
映画やドラマにも使われる人気スポット。一本橋や桜、柳などが美しい。
・とらや四條南座店
東山区
歌舞伎発祥の地である京都四條南座内。観劇の合間や、観光の合間にも来店可能。
物販・喫茶の複合店です。喫茶では羊羹や季節の生菓子をいただけます。
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