春の京都旅 ⑨ 早朝の京都東山から、四条室町まで。静けさと日常のあいだを歩く

春の京都旅


まだ人の少ない京都の朝。
観光地となる前の静かな時間を選んで、
この日は早朝のバスに乗った。

向かったのは、東山にある金毘羅さん。
正式には安井金比羅宮。
最強の縁切りと縁結びで知られる場所。

鳥居から本殿までの
ゆるくカーブしている参道の
桜がちょうど満開だった。
朝の静かなお花見を味わう。

この神社は悪い縁切ってくれるだけじゃなく、縁結びもお願いできるからと、
日中は人で賑わう境内だけど、朝の時間は狙い通り静かだった。

願いごとがびっしり貼られた縁切り縁結び碑の前に立つと、
少し背筋が伸びる。
にぎやかな時間帯とは違って、
どこか自分の内側と向き合うような空気がある。

手水舎で手と口を清め、本殿に手を合わせる。
形代に結びたい縁を記し、賽銭を納める。

記した形代を持って、
願いを念じながら、
碑の穴を「表から裏」へくぐり悪縁を切る。
そして「裏から表」へくぐり良縁を結ぶ。
形代を碑に貼りながら、
願いが叶ってお礼参りができますようにと思いながら、
境内をあとにした。


鳥居前の三条通りを渡ってねねの道へと向かう。

石畳がゆるやかに続くこの道は、何回歩いても、
歩くだけで気持ちが整っていくような場所だ。
まだ店も開いていない時間帯で、人の気配もほとんどない。
自分の足音と、時折聞こえる鳥の声だけが、静かに重なる。
ここも道沿いに立つ桜も見頃。

ゆっくり街並みを楽しみながら、
円山公園経由で八坂神社へ向かう。



円山公園の入口には、長楽館。
明治の実業家が迎賓館として建てた、静かに佇む洋館だ。

このあたりに来ると、
なぜか必ず、その姿を確認したくなる。

高校を卒業して、アメリカへ渡る前。
はじめての一人旅で泊まったのが、この場所だった。
当時は、学生の私でも泊まれる素泊まりの部屋もあって、
たしか五千円ほどだった記憶がある。

今はブティックホテルとして、
少し手の届かない存在になっているけれど、
建物はあの頃と変わらず、そこにある。

ふと見上げると、
円山公園の桜もちょうど満開で、
朝の光の中で、揺れている。



円山公園から八坂神社に入る鳥居をくぐると、
朱色の社殿が、凛として現れた。

普段の賑わいを知っている場所ほど、この時間の静けさが際立つ。
観光というよりも、散歩に近い時間。
何かを“見る”というより、ただ歩くことで、京都に少し馴染んでいくような感覚だった。


お参りのあと、
本殿の下にある龍穴と呼ばれる池から湧く
ご神水を、ボトルにいただく。

清らかな水。
この街では、こういう水が、
ずっと大切にされてきたのだと思う。

それから、並びの小さな社にも手を合わせる。
いつの間にか、それが自然な流れになっていた。

八坂さんへの挨拶を終えたところで、
東山をあとにして、街中へ。
人の気配が少しずつ増え、店が開き始める頃、四条室町へたどり着いた。

この日はここで、京都に暮らす知人と待ち合わせていた。
少し賑やかな通りに面した店に入り、席につく。
観光地の喧騒とは違う、日常の京都の空気。

取り留めのない会話をしながら、ゆっくりとお茶を飲む。
朝の静けさから、少しずつ現実の時間へ戻っていくような感覚。
京都の日常、旅と一緒に味わう。
こういう時間が、旅をまたよくしてくれる。

早朝の京都から始まった一日は、
静けさから、少しずつ温度を帯びていった。

そしてこのあと、もう一度、静かな場所へ向かうことにした。

立ち寄った場所・東山区

・安井金毘羅宮
縁切り・縁結びで知られる神社。
早朝は人も少なく、静かに向き合える時間が流れる。
・ねねの道
豊臣秀吉の正室・ねね(北政所)にゆかりのある道。
高台寺から円山公園へと続く石畳は、
朝の時間、足音だけがやわらかく響く。
・長楽館
明治の迎賓館として建てられた洋館。
今はホテルとして、静かにその時間を受け継いでいる
・八坂神社
祇園祭の発祥とされる神社。
疫病退散を願う祈りから始まった祭りは、今も京都の夏を象徴している。
地元では「八坂さん」と呼ばれ、
京都に来ると自然と足が向いてしまう場所でもある。
朝の境内は人も少なく、少しだけ違う表情を見せる。


歩いた道のひとつひとつが、
あとから静かに重なっていく。

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