午後から登る鞍馬寺|五月満月祭と、金剛床で満ちた満月のエネルギー【5月の京都】

鞍馬寺の仁王門。五月満月祭の幟がかかる初夏の参道入口 京都トレイル・散策


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 京都・鞍馬寺(くらまでら)には、年に一度、満月の夜におこなわれるお祭りがあります。五月満月祭(ウエサク祭)。月の光に祈りを捧げ、宇宙の力をいただく、神秘的な一日。

 その日の午後、わたしは鞍馬山へ向かいました。午後から、満月の力を、すこしでも受けて持ち帰ろうと。

 夜の祭りは19時スタートの23時近くまで開かれるのですが、夜まで残らずに明るいうちに下りてきました。それでも、本殿金堂の金剛床に立った時、足元から、確かに何かが届いてきたのを感じました。午後からの半日でも、満月のエネルギーは、ちゃんといただけたのだと思います。

 そんな、鞍馬の山の半日の記録です。

午後から、鞍馬へ

 鞍馬寺へは、出町柳から叡山電車(叡電)に乗って、終点の鞍馬駅まで30分ほど。一両、二両の小さな電車が、街をはなれて山あいへ入っていきます。窓の外がだんだん緑になっていく時間も、ワクワクとして素敵な時間です。

京都・叡山電車から鞍馬への向かう車窓

 

 鞍馬駅を降りると、大きな天狗(てんぐ)が出迎えてくれました。ここから、仁王門(におうもん)をくぐって山へ。

鞍馬駅の天狗アップ

仁王門をくぐって、山へ

 仁王門の脇で、愛山費(あいざんひ)を納めます。お一人500円。ここから先が、鞍馬寺の山内です。

 本殿のある場所までは、ケーブルカーもあります。でもこの日は、40分待ち。それに、山を歩いて登るのは、旅のいつものかたちなので、迷わず、参道を歩いていくことにします。

 この旅は「満月祭がある」ということ以外、ほとんど何も調べずに来ていました。だから、道のあれこれも、ぜんぶその場での出会いです。

朱の灯籠が立つ鞍馬寺の参道の石段。新緑のなか、本殿へとつづら折りに登っていく

 

 杉木立のあいだを、つづら折りの参道がのぼっていきます。途中であらわれたのが、由岐神社(ゆきじんじゃ)。境内には、見上げてもてっぺんが見えないほどの、大きな杉が立っていました。樹齢八百年とも伝わる御神木で、「大杉さん」と呼ばれているのだそう。

由岐神社の御神木「大杉さん」。樹齢約800年の杉が青空へ伸びる、鞍馬寺の参道


 中門(ちゅうもん)を過ぎると、坂はいっそう急に感じます。朝から歩きつづけてきた足に、つづら折りがグッと身体にこたえつつ、登れば登るほど、山が深く、奥へ入っていくのを感じます。木々の間を抜けてくる風はひんやりとして、一歩ずつ、気持ちが澄んでいきます。

鞍馬寺の中門。杉木立の石段の上に建つ門で、本殿金堂まであと400メートル

本殿金堂と、金剛床

 つづら折りを登りきり、最後の長い急な石段を登り切ると、一気に視界がひらけて、本殿金堂(ほんでんこんどう)の前に出ます。そして、そこはもう、人、人、人。やはり、五月満月祭の日でした。あたりを見渡すと、本殿の前の広場への長蛇の列。

 お堂の前の広場には、宇宙のエネルギーである尊天の波動が果てしなく広がる星曼荼羅を模していた、内奥に宇宙の力を蔵する人間が宇宙そのものである尊天と一体化する修行の場だそう。星の形をした石の模様が敷かれています。これが、金剛床(こんごうしょう)、星曼荼羅を模した石畳の広場。鞍馬の教えでは、天からの力がこの中心に降りそそぐ場所なのだそう。

五月満月祭の本殿前庭。金剛床のまわりに心のともし灯を並べ、場所取りをする鞍馬寺の参拝者

 

 その金剛床に立つための行列と、夜の満月祭の灯明(とうみょう)──ろうそくを購入するための行列。列は二つにのび、金剛床の周囲は、夜の祭りを待つ人たちの場所取りで、すでに囲まれていました。いちばん乗りの方は、きっと朝から来ていたはず。

 金剛床の列にならんで、本殿に深く礼をして、六角形の中の三角形の上、星曼荼羅の中心に立ちます。

五月満月祭の本殿前庭。金剛床のまわりに心のともし灯を並べ、場所取りをする鞍馬寺の参拝者

 

 立った時、足の裏に、何かを感じて、届いた気がしました。言葉にすると、軽くなってしまう。でも、確かにありました。鞍馬寺が、京都でも屈指のパワースポットと言われる。その所以が、ここにあるのかもしれません。

 この日は満月祭のため、お堂の拝観は16時まで。ぎりぎり間にあって、お参りをすませ、五月満月祭の特別な御朱印をいただいく。そうして、人波をぬけて、貴船神社のほうへと足を向けました。

貴船へは、また別の日に

鞍馬寺 奥の院への指標

 本殿金堂の先、奥の院・魔王殿を抜けて山を越えれば、貴船へ下りていけます。木の根が地表を這う、あの「木の根道」を歩いて、向こうまで行ってみたかったのです。

 でも、本殿から少し登った道標で、足が止まりました。

 奥の院魔王殿まで、570メートル。貴船まで、1140メートル。早朝から歩き通してきた足には、ここから先は、ちょっと。

 貴船は、また別の日に。そう思いながら、来た道を戻りました。

鞍馬寺の山中の道標。奥ノ院570m・貴船1140m、本殿340m・仁王門1340mの分岐

祭を待たずに、下りる

 本殿のあたりまで戻ってくると、山は、来たときよりもさらに人を増していました。これから夜にむけて、満月祭の本番がはじまります。一年でいちばん、鞍馬寺がにぎわう夜です。でも、その夜を待たずに、山を下りました。もう十分、満月の、宇宙のエネルギーをいただいた。

 下りていくと、すれちがうのは、これから登っていく人ばかり。後から後から、鞍馬寺をめざして、人が上がってきます。みんな、夜の祭りへ向かうのでしょう。その流れと逆に下りる爽快な気分。

 人のいないところを目指して、ゆっくりした旅を──が信条です。

下りて、雍州路で一服

 仁王門の石段を下りきったところに、一軒のお店があります。雍州路(ようしゅうろ)。鞍馬寺の御用達だそうです。

鞍馬寺御用達の精進料理店「雍州路」の店先。木の看板とお品書き

 

 入り口でメニューをながめていたら、お店の年配の男性が、「まだ食事できますよ、どうぞ」と声をかけてくれました。外国の方で、旅で訪れる人と話すのがお好きなようで、いろいろとお話をしてくれます。

 いただいたのは、鞍馬の名物、雲珠(うず)そば。冷たいお蕎麦を、あたたかいつゆにつけて、七種の薬味でいただきます。動物性のものを使わない、やさしい精進のお料理。歩きとおした体に、すっと馴染んでいきます。

 お茶は、炭火で燻した京ほうじ茶。鞍馬山の観音水でいれているのだそうです。香ばしいひと口が、ほっと、体に沁みました。

雍州路の雲珠そば。冷たい蕎麦を温かいつゆと七種の薬味でいただく、鞍馬の精進そば

くらま温泉で、ほぐす

くらま温泉の入口。石段の上に灯る木の灯籠と鞍馬提灯

 

 鞍馬駅へ歩いていくと、くらま温泉の送迎バスのおじさんが、大きな声で「送迎しますよー」と呼んでいました。それならと、バスに乗りこみます。

 露天風呂につかって、まず驚いたのは、まわりの六割ほどが外国の方だったこと。鞍馬の湯に、こんなに世界中から人が来ているなんて。歩きづめだった体を、お湯がゆっくりほぐしていきます。

 実はこのくらま温泉、湯船に浸かりながら思い出したこと。台風や大雪でたびたび被害を受けて、露天風呂の屋根がつぶれたこともあり、三年ほど休館していたのだそうです。それが、二〇二四年の秋、ふたたびよみがえったばかり。新しくなったお湯は、露天もすばらしくて、お料理もおいしいと聞きました。入館料は露天風呂だけで1,600円と、正直ちょっといいお値段ですが、次は、お食事もいただいてみたいな。(料金は2026年6月時点)

 帰りも、駅まで送ってもらいました。疲労も和らぎ、さっぱりして、宿へと戻りました。

生まれ変わったくらま温泉ののれん。災害から復活し2024年に再開した、鞍馬の名湯

鞍馬と貴船は、山ひとつ越えて

 引き返した奥の院を抜けて、鞍馬寺の西門へ。そこから山を下りれば、貴船川のほとりに出ます。鞍馬と貴船は、山をひとつ越えれば、つながっている。


 歩いては行けなかった貴船に、じつは翌朝、反対側からたどり着きました。「また別の日に」と思っていたのが、すぐ次の朝になったわけです。青もみじが朝の光に透ける、その早朝の貴船の話は、こちらに。

👉 青もみじの貴船神社さんぽ|水占みくじと、川床カフェの一服【6月の京都】

 京都の山を歩くのが好きで、これまでも、千本鳥居の先の伏見稲荷や、大文字山を歩いてきました。鞍馬も、その一日です。午後からでも、満月の力を少し分けてもらえた、静かな半日でした。

 ちなみにこの鞍馬の前日——旅の初日は、山ではなく、街なかを歩いていました。山本容子さんの版画展に、茨木のり子さんの詩。ことばとアートをめぐった一日の話は、こちらに。
👉 京都ひとり旅・アートをめぐる一日|ミナ ペルホネン・山本容子展・茨木のり子展と御金神社【5月の京都】


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